【大好き】第8話 とくべつな人
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藤堂家は早坂との交際に大反対だった。彼らは早坂の特性も、同性愛も受け入れなかった。
藤堂は早坂に3年待ってほしいと言い、その間に経営企画部長として数々の実績を残し、異例のスピードで副社長に就任した。
それから藤堂は輝かしい功績を手土産に早坂を連れて両親のもとを訪れ、最後には膝をついて頭を下げて、早坂との結婚を認めてほしいと懇願した。
そして藤堂の両親はついに、藤堂の決意の固さと愛の深さに打たれ、早坂との結婚を許したのだった。
早坂は、話がよくわかっていないようでキョトンとしていた。
「プロポーズは、私たちの大切な場所でするからね」
藤堂はいつもと変わらない優しい笑顔で、早坂の髪を撫でた。
ある日の昼休み、藤堂は早坂の手を握り、思い出の屋上庭園へと導いた。そこには誰もいなかった。空は晴れ渡り、花壇にはたくさんの花が咲いていた。
「いいんですか? 僕が入っても……」
「いいんだよ、今日は特別な日だから」
藤堂が言うと、早坂は目を瞬かせた。これから何が待ち受けているのか、全く予想できていなかった。
「真、3年間待っていてくれて、ありがとう。君の変わらない純粋な愛が、私の力になっていたんだ」
東京タワーを背景に、藤堂は片膝をついた。
「これからは、もう二度と離れることはないよ。真……僕と結婚してくれますか?」
藤堂は小さな箱から、シンプルなプラチナのリングを取り出した。早坂は、リングと藤堂の顔を交互に見た。
「これまでの3年間、毎日『おやすみなさい』のメッセージをくれて、お弁当を一緒に食べて、週末を一緒に過ごして……全部が宝物だった。そして、これからも……」
藤堂は早坂の目を見つめながら、静かに微笑んだ。
「私の一番の宝物は、真という『とくべつな人』だから」
藤堂の言葉を受けて、早坂はまた、目を瞬かせて藤堂を見つめ返した。
物心ついたころから母子家庭で育った早坂は、結婚がどういうものなのかよくわかっていなかった。ただ、これからいつまでも藤堂と一緒にいられるということだけは理解できた。
「僕、準さんと結婚します……!」
二人きりの屋上庭園で、早坂は大粒の涙を流した。今度は、喜びの涙だった。
藤堂は早坂の指にリングをはめながら、自分の頬も濡れているのを感じていた。
「真……ありがとう。これからは、私が家族になるからね。毎日一緒に過ごして、たくさんの思い出を作っていこう」
藤堂は早坂を優しく抱きしめた。
「ねぇ、新しい家には恐竜の部屋を作ろうか。真の好きなものを、全部飾れる場所を。そして、お母さんの写真も、一番素敵な場所に」
「はい、恐竜の部屋、欲しいです。お母さんにたくさんお菓子をあげて、準さんとたくさん遊びたいです」
二人の周りには、春の柔らかな風が吹いていた。
「これから毎日、真に『おはよう』と『おやすみ』を言えるんだね。約束するよ。ずっとずっと、真の『とくべつな人』でいること。真の『大好きよりももっと大好き』な気持ちを受け止めること。そして真の純粋な心を、永遠に大切にすることを」
藤堂は早坂の涙を優しく拭いながら、これからの人生への幸せな期待に胸を膨らませていた。
それから半年後、二人は結婚式を挙げ、華やかな披露宴を開いた。
式には瀬戸係長や早坂の友人たち、藤堂の部下たちや社長も出席した。
ウェディングケーキは恐竜をモチーフにしたもので、早坂は大喜びした。
係長は早坂のスピーチで「もう一人のお母さん!」と紹介されて泣き出してしまい、早坂ももらい泣きして大変なことになった。
「準さん、大好きです」
出席者たちが楽しそうに会話や食事を楽しむのを眺めて、それから隣の藤堂を見つめる早坂。その瞳には幸せの光が満ち溢れていた。
「真、私も大好きだよ」
藤堂も早坂を見つめ返して、微笑んだ。
そして披露宴の最後、藤堂は早坂の手を取り、皆に向けて静かに語りかけた。
「出会った日から今日まで、真は私の人生を温かな光で照らしてくれました。清らかで純粋な心で、私に愛することの本当の意味を教えてくれました」
そして、早坂に向き直る。
「真、約束するよ。これからもずっと、あの日のたい焼きのように温かく、ホットチョコレートのように甘い日々を。そして何より……」
藤堂は早坂の目をじっと見つめて続けた。
「真の『とくべつな人』として、一生涯、あなたを愛し続けることを」
「準さん、僕もずっとずっと、準さんを愛し続けることを約束します」
早坂もまた、藤堂の優しい瞳を見つめなおして愛を誓った。
会場には幸せな空気が満ちていた。そして二人の新しい人生が、今始まろうとしていた。
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